【あらすじ】
秘封倶楽部×さよならを教えて ファナティックホラー小説
『 不 完 全 な 彁 鵈 の 為 の ダ ー ザ イ ン 』
新書版 164頁 1000円
C86 2日目 東ト-52a 鏡花風月、東ツ-08b 1569にて委託頒布予定
※18歳未満の方の閲覧はご遠慮願います
教育実習。 宇佐見蓮子にとって、その時間は非線形的であった。 夕暮れの校舎。無人の教室。 そこで、彼女は七人の[Dasein]が欠損した少女達に出会う。 天使の瞳を抉ってしまった。 10日も前の事だ。 マエリベリー・ハーンは知っている。 自分は、宇佐見蓮子を殺した事を。 それからずっと。 夢を見ていた。 「鵺という怪異はな」 マミゾウと名乗った保健医が笑う。 「状態系でしか存在しないのじゃよ」 「だから」 「鵺と云う名前で呼ばれたお化けが存在する」 「其の時に初めて」 「鵺と云う怪異は存在できる」
蓮子は眼帯をそっと外した。 硝子の中。 鏡となった硝子の中に見えた物は。 右目が陥没した、メリーの顔。 そうだ。 彼女は。 私が畏敬する天使なのだから。 彼女には視えている。 境界の果てが見えている。 だから、私も其れが見たかったんだ。 そう。 そうなんだ。 自分の中に埋没する瞳。 他人の瞳。 瞳は性的な器官だ。 性器よりもずっと。 何故ならば、観測する事で、人は其の人間そのものを体内に取り込む事が出来る。 精神性も、社会性も、個人性も、何もかもを呑み込む事が出来る。 故に、瞳は性器だ。
「本当なんです」 ほそと蓮子は吐きながら呟いた。 「ほう、何がかね?」 「彼女の事が好きなのは、本当なんです」 「なるほど」 「其れだけは嘘じゃないんです」 「では、其れ以外は?」 「ええ」 「其れ以外は、何だったんじゃ?」 眼帯が、外れた。 左目。 無数の糸が解れて、埋め込まれた左目。 其の眼窩から、ごとりと腐った眼球が零れ落ちた。 其れが、紙コップの上に落ちていく。 吐瀉物とジャムの上に、半分が液状となった眼球が落ちる。 褐色の虹彩は既に、砕けてしまっている。 其れを、蓮子は飲み干した。 「全部、嘘です」
「先生、さよなら」