「ねぇ、パチェ」
悪魔が、毒を含んだ甘い声で囁く。
「そろそろ■■■が死ぬわ」
低く枯れた声で、そうとだけ。
「またなのね」
魔女は頁を一つ、また捲る。
其処には、やはり無音だけ。
「いいえ、未だなのよ。
 パチェ。
 此の芝居は既に終わり続ける。
 そして、此の芝居は常に始まり続ける。
 何も終わらない、
 だから、何も始まらない。
 此の間違いだらけの恋文は、其れでも永遠に続き続ける。
 だから、終わらなければならない。
 其れが、貴女と私の約束なのだから」
「いいえ、貴女と私との約束よ」
「パチェ、
 此の退屈な喜劇を、
 此の怠惰な悲劇を、
 子供がむずがるばかりの物語を」
そっと、魔女の頬を悪魔が撫でる。
「また死ぬのね」
「未だ死ぬのよ」
詩人は詠っていた。
流れる風が、飛ぶ鳥が、そよぐ樹が、抜ける空が、きっと君に告げるだろう。
―酔いたまえ。今は酔いたまえと。

 

  劇』
    C80 スペース2日目東セ-03b『遊閑地』にて委託頒布予定
              日付:二〇十一年 八月十三日

              文章:海沢海綿
              表紙:ムラ