【 conte1:紅魔館 寝室/魔法使いの場景 】

 アリスは頁を捲る。  「さっきから何を読んでるんだ? いつも持ってる魔道書じゃないみたいだけど」  「この物語よ」  「は?」  「だから、この物語。貴方と、彼女達と、私の物語」  「何、訳分からない事を」  「大丈夫よ、其の内、分かるから。否、分からないままかも知れないわね。  けれど、そんな事には何の意味も無い」  其の時、きぃと扉が開く音がする。  二人は、部屋にある唯一の扉へと視線を向けると、其処には見知った顔が居た。  透ける程に薄い白絹のネグリジェだけを身に纏った、青白い顔をした少女。  「パチュリー?」  魔理沙が名前を呼べと、表情一つ変えず、音も立てずにベッドへ向かって歩み寄る。  ベッドの上に乗る為に、膝をシーツに乗せた時、すいと視線だけでアリスを見つめていた。  そう、貴方なのね、今回はと呟いて。  圧し掛かる様に、魔理沙の体を跨ぐと、馬乗りになりながら、腰を曲げる。  顔と顔、頬と頬が近づく。麝香の匂いがすいと魔法使いに聞こえた。  唇が近づく。指の一つ分だけ離れた顔。じいとパチュリーは彼女を見下ろしていた。  「お、おい。な、何する気だよ?」  自身の姿を思い返して、頬が赤く染まっていくのに気づく。  枯れた白樺の様な指先が火照った頬をそっと撫でる。  「ねぇ、魔理沙。  私達は一件を探している。  一件は遂行されなければならない。  其れは虚無を開拓する事」  其の一言が、そくりと魔理沙の背中に凍てついた百足となって這いずる。  いつかに聞いた、何処かで聞いた。  其れは、二匹の悪魔が笑いながら語った事。  此の世で最も無意味な行為と嘲笑い、そして。  「お、おい」  「私達は存在している。  けれど、其れは私達の間で循環し続ける事でしかない。  私達は行為を繰り返し、  行為に意味と価値を与え、  共と云う状態を造り上げる事で、  単一ではなく集合体として存在を続ける」  唐突に語り始めた魔女の言葉。  其れを、理解する言葉を彼女は持ち合わせてはいなかった。  否、全てがと思い始めている。  吸血鬼の姉妹、目の前の魔女、そして自分達のやり取りをずっと見つめ続ける人形遣い。  皆、何かを共有しているのは理解出来る。  自分以外の何かの文律で歯車が廻り始めているのを、理解してはいた。  けれど、だからと言って。  「私達が他者にとって存在をする為には、私達の循環を観測される必要がある。  けれど、観測された私達は果たして、本当に私達であるのかしら。  例えるならば、一人の哀れな指揮者の聞いた真の理想的幻想協奏曲の様に」  「だから」  「貴方に、一人の哀れな男の話をしてあげる。  男は指揮者だった。  けれど、其の名声は偏に彼の妻自身が高名なる音楽奏者であるが故に得た物であった。  逆を云えば、彼には才能と呼ばれる物は何もなかった。  膨れ上がった名声と実際の実力とかが乖離し始めた。  其の時に、彼自身も乖離を始めていた。  其れは、目の前にあるパンとワインがある世界と男自身との間で。  ねぇ、魔理沙。完全なる音楽とは何なのかしら? 絶対的な音楽とは」  「何が、言いたいのか」  「虚無を開拓する事よ。  貴方だけ理解をしていなさそうだから。  そうでなければ、意味が無い。  否、意味は無い。  元々、何処にも無い。  けれどね、其れでもやはり、私はこの話を続けなければならない。  そう云う物語なのだから、これは。  乖離した男の精神は、既に肉を持った世界では生きてはいかれなかった。  が、故に、隔離病棟へと収容されたのよ。  そして、そこで、男は同じく乖離してしまった者達と共に協奏曲を奏でる事を望まれた。  指揮を、彼等の指揮を行わなければならなかった。  自らを死刑台へと導いた物を、死刑台で手に取った時に、人は、如何にも壊れていくみたい。  男には、其の時、初めて聞こえたのよ。  自身にとって完全に理想的で、完璧な幻想協奏曲を。  男は狂った様に指揮をした。否、狂った指揮をした。  男には聞こえる。頭蓋の底で反響を繰り返す、其の音楽を。  けれど、けれどね、其れは彼にしか聞こえない。  そして、彼には其れしかもう聞こえない。  滅茶苦茶な指揮で演奏された音楽は既に騒音でしかない。  聞く者は皆耳を閉ざした。  けれど、其れは彼にとっては何の関係などない。  何故なら、聞こえるのだから。  彼の中では存在しているから。  けれど、其の音楽は存在していない。  不在だけしか証明を出来ない」  アリスは頁を捲る。  「魔理沙」  「な、なんだぜ?」  「貴方を今から犯すわ」  「は?」  体を起した其の時に、  パチュリーの股間には巨大な青緑の毒々しい色彩を帯びた肉塊が聳えたっていた。  ぼつぼつとした疣が表面に浮き、黄白色の粘液が表面を濡らし、めとりとした質感を孕んでいた。  男根。歪な姿をした、陰茎を彷彿させる、そんな物が魔女は生やしていた。  「お、おい!」  「これで貴方を犯す。そして、貴方の膣内に卵を産み付けるわ」  「た、卵?」  「これは、淫魔の類が一つ。  自身以外の物に憑りついて、憑りついた生体と同じ雌に対して卵を産み落とし、胎内で孵化する。  安心して、命には異常は無いわ。  強いて言えば、被寄生者は快楽を得るけど、これ自身には媚薬効果が無いから」  指先を舐めて、すいと剥き出しの魔理沙の性器へと唾液を塗りつける。  「ただ、痛いだけかもしれないけど」  「ちょ、やめ……がぁっ!」  抗議と拒絶の言葉よりも先に、未だ開き切らない膣穴へと暴虐な悪魔の男根が刺し入れられていた。  胎の中に火箸を突っ込まれた様な熱い痛みが背?を伝って、脳を揺さぶり続けた。  ぬると表面を覆っていた粘液が膣壁へと纏わりつき、腰を振った。  連続的な挿入行為を潤滑にさせるが、  けれど小さな膣口は巨大な悪魔の体を受け止めきれず、  きちと縦に裂いてしまっていた。  滴る血の雫が白いシーツへと、斑点を描き出す。  細い体には余りにも大き過ぎて、腹が陰茎の形にこぽと膨らんでしまっている。  「ん……はぁ。ん、く、はぁ、はぁ」  熱い吐息が魔女の口から零れ、其の度に腰の動きは激しさを増していく。  表面の疣が擦られる度、  魔理沙の中を削り圧迫し続け、  ごりと抉られていく感覚だけがじりと思考を焼き続ける。  喉から出るのは苦痛の吐息だけ。  絶え絶えに吐けども、自分の体が痛みと圧迫だけで支配されてしまい、  自分が喉と子宮だけになってしまった様な錯覚ばかりが脳の中を埋め尽くしていた。  ぎちぎちとベッドが衝動への悲鳴を上げている。  かくらと顎が震えるばかりで、声が出ない。  息さえも、侭ならない。視界が焼けた様に火花を散らしていた。  「んく……さすがに……んあは……せまっ……にふ」  ずちゅりと血と自身の粘液だけを潤滑剤にして、魔女は魔理沙を貫き続ける。  太腿を掴み、自身の横腹を挟ませる様に足を回させ、  逃げられない様に掴んでいるからか、永続する様な苦痛から逃れようと腰を動かせど、  逆に腰を魔女に押し付ける様な体勢になってしまい、更なる責めを誘ってしまう。  僅かに浮いた腰。  汗が太腿の内側を濡らして、痒みを帯びた気怠い疲労感と痺れを覚え始めていた。  「魔理……沙……早い、けど……そろ、そろ」  瞳は既に虚ろになった少女へと、虚空の言葉を投げかける。  「魔……っ!」  そこで、パチュリーは動きを止めて、ぴっちりと腰と腰を押し付けたまま、姿勢を固定していた。  びくびると魔理沙の体が痙攣を始めていた。  膨らんだ腹が、妊婦の様に膨れていく。  じゅるりと水音が響く。  肥大は、加速度を増していく。  「ん、はぁ……」  荒く息を吐きながら、ずると陰茎を引き抜く。  ごぼりと魔理沙の膨れ上がった腹が捩れながらも、歪に蠢き始めていた。  荒い吐息を整えない侭に、頬を寄せて耳元に囁く。  そっと、ぼこるぼこりと動き続ける腹を撫でながら。  「貴方の中に今、三万六千九十三匹の蟲の卵を注いだわ。  今は、一斉に孵化を始めている頃。感じるでしょう?」  びくと蠢く度に魔理沙自身の背中も跳ね上がる。  ずると膣口から白く粘ついた、殻を持った親指程の大きさをした蛆虫達がシーツの上へと流れ出ている。  じゅると水音を立てながら、魔理沙の肌の上を這い回り、両足を埋め尽くしていく。  じりちきと這いずり廻るだけの感覚。  肌に感じるのは、生温い肉が行き交う未知の感覚だけ。  空白になった思考に、違和感ばかりが犇めいて。  「あ……ああ……」  譫言をだけを繰り返す。